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ナノ絵レトロにクスやエネルギー変換用のデバイスにグラフェンを実装するには、共有結合や吸着などによる材料改質が必要になることが多々あります。 しかし、しわなどと元のグラフェンの局所的な表面の不均一性は、均一な材料改質に影響を与える可能性があるため、材料の機能特性と組み合わせたグラフェンの ナノスケールでの正確な特性評価は不可欠です。

Ilka M. Hermes,1 Simonas Krotkus,2 Ben Conran,3 Clifford McAleese,3 Xiaochen Wang,3 Oliver Whear,3 Michael Heuken2

1 Park Systems Europe GmbH, Mannheim, Germany
2 AIXTRON SE, Herzogenrath, Germany
3 AIXTRON Ltd, Cambridge, United Kingdom

はじめに

ナノ絵レトロにクスやエネルギー変換用のデバイスにグラフェンを実装するには、共有結合や吸着などによる材料改質が必要になることが多々あります。 しかし、しわなどと元のグラフェンの局所的な表面の不均一性は、均一な材料改質に影響を与える可能性があるため、材料の機能特性と組み合わせたグラフェンの ナノスケールでの正確な特性評価は不可欠です。原子間力顕微鏡(AFM)は、実空間のトポグラフィーイメージングと、電位、凝着力、弾性率などといった機能的な表面特性の 検出を組み合わせることで、グラフェンや2D材料のナノスケールでの特性評価への全体的なアプローチを可能にします。

材料を2次元に縮小すると、独特の特性が現れます。そのため、グラフェンは、驚くほどの電荷キャリアダイナミクス、 高い熱伝導率、機械的強度など、さまざまな優れた物理的特性を見せます。2D材料、特にグラフェンの将来の用途としては、 フレキシブルエレクトロニクスからオプトエレクトロニクスおよび電気化学的エネルギー貯蔵にまで及びます。さらに、2D材料の低次元性と軽量性は、 電子デバイスの継続的なダウンスケーリングにより、ナノエレクトロニクス研究者の注目を集めています。1

電子デバイスでのグラフェンの工業的応用には大きなウェハースケールのグラフェン超薄膜が必要であるため、研究者は単層成長過程の改善に力を注いでおり、 触媒銅 (Cu) への化学蒸着(CVD)が最も検討されています。ただし、Cu基板上でのグラフェンの成長には、その後の絶縁基板への転写が伴い、 単分子層が損傷して汚染が発生する可能性があります。そのため、絶縁基板上で直接成長させるプロセスは、将来のグラフェンアプリケーション に向けた重要なステップでもあります。2 この研究では、AIXTRON社のR&D用の結晶成長装置でウェーハスケールのグラフェンがLEDグレードのC面サファイア上で成長したことがわかりました。

絶縁サファイア上でCVD成長させたグラフェンの形態と 機能特性を調べるには、他に存在しない、用途の広さを 持つAFMが理想的です。 その理想的なAFMとして Park Systems NX20のサイドバンドケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を使用して、サファイア上の グラフェンの特性を明らかにしました。グラフェンと その下にあるサファイア基板表面との間で表面電位の明確なコントラストを観察することができ、 グラフェンのしわやステップエッジ上の表面電位の変化を観察することができました。トポグラフィーの特徴とKPFM表面電位の相関関係は、以下の図1-トポグラフィーと 表面電位の3D オーバーレイで明らかになります。

app59 fig1

図 1.グラフェントポグラフィーの3Dオーバーレイ示されているようにしわとその下にあるサファイアの ステップが表示され、
サイドバンドKPFMを介して表面電位が画像化されています。

このオーバーレイは(図1)、グラフェンのしわやサファイア基板のステップ周辺の表面電位がテラス部分よりもかなり低いことを示しています。 さらに、表面電位分布は、ParkのPinPoint™ナノメカニカルモードを介して解明された機械的特徴に対応しています。KPFMとナノメカニカル信号gの相関関係は、 グラフェンの機械特徴と電気特性の関連があるという可能性を示しており、2D材料の全体的な特性評価手法としてのAFMの可能性も示しています。

サイドバンドKPFMによる表面電位イメージング

AFM技術であるKPFMは、表面電位と同時に表面トポグラフィーを取得します。導電性カンチレバーと導電性または半導電性サンプルが電気的に接続されると、 それらのフェルミ準位が揃い、材料の仕事関数に対応して接触電位差(CPD)を発生します。チップとサンプルの間のこのCPDによって、静電気力が生じます。 KPFMでは、導電性カンチレバーを用いて表面をスキャンし、AC電圧を印加されたカンチレバーは、表面電位分布に応じたCPDの局所的な変動によって引き起こされる この静電気力の局所的な変化を検出します3。 局所的な表面電位を測定するために、スキャンの各ポイントでCPDを打ち消すようにカンチレバーにさらにDC電圧が印加されます。適用されたDC電圧に基づいて、 サンプルの表面電位分布がKPFM信号で再構築されます。KPFMの表面電位の分解能と精度については、静電気力の検出方法に依存します。

広く適用されているオフレゾナンスKPFM法では、AC電圧は、トポグラフィーイメージングに使用されるカンチレバーの共振周波数から遠く離れた周波数変調で 静電気力を検出します。図2(a)のカンチレバー振動の概略周波数スペクトルは、それぞれ周波数 fACとf0での電気的励起と機械的励起の分離を 視覚化しています。静電気力は、AC周波数での振動振幅を介して検出されます。チップとサンプル間の電位差によるオフレゾナンス周波数での振動振幅が無くなるまで DC電圧を印加します。ただし、KPFM信号が長距離に依存すると、測定の感度が低下します。サンプルとカンチレバー間の非局所的な相互作用が局所的な信号に重なるため、 オフレゾナンスKPFM3を介して測定される表面電位の空間分解能と精度が損なわれます。

KPFM信号の解像度と精度を向上させるために、Park SystemsはNXシリーズ研究用AFMに使いやすいサイドバンドKPFMモードを実装しました。 サイドバンドKPFMでは、静電気力勾配を変調するために、低周波数AC電圧(2~5kHz)がチップに印加されます。変調された力の勾配は、図2bのカンチレバー周波数 スペクトルの概略図に示されているように、カンチレバー共振の左右に周波数側波帯をもたらします。オフレゾナンスKPFMと同様に、 サイドバンドKPFMのフィードバックは、各測定位置での電位差によるサイドバンドの振動振幅が無くなるところまでDC電圧を印加します。力の代わりに短距離の 力勾配を検出することにより、長距離のクロストークが減少し、横方向の分解能と局所的な電位感度が大幅に向上します3

サファイア基板上のCVD成長グラフェン超薄膜上でサイドバンドKPFMを測定することにより、サンプルのトポグラフィーと直接相関する明確で潜在的な コントラストを明らかにしました(図3)。トポグラフィー信号は、下にあるサファイアテラスと最大3 nmのさまざまなステップの高さ、および0.5~2 nmの範囲の 高さのグラフェンのしわを示しました。興味深いことに、各サファイアテラスは、図の拡大画像の詳細に示されているように、ステップエッジの近くに0.6 nmの 高さのより細かい下部構造を備えていました3

同時に記録された表面電位は、2つの離散状態の間に明確なコントラストを示しました。サファイアステップに近い高い位置とグラフェンのしわ部分で 低電位状態が観察され、下層にあるサファイアテラスの上にあるバルクフィルムでは高い電位が観察されました。図3のラインプロファイルでキャプチャされたしわについては、 サファイアテラスのバルクフィルムに対して約0.5 Vの電位コントラストが検出されました4。 一方、サファイアステップに近い高さの電位は、テラスのバルクフィルムの電位から約0.7 Vの違いがありました。

app59 fig2

図2.a) のオフレゾナンスKPFMと b) のサイドバンドKPFMのカンチレバー振動の概略周波数スペクトル

 

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図3. サファイア基板上のCVD成長グラフェン上のサイドバンドKPFMを介してキャプチャされたトポグラフィーと表面電位。 緑のトポグラフィーと赤の表面電位のラインプロファイルは、2つの信号の相関関係を示しており、下層にあるサファイアのステップとテラス、 およびグラフェンのしわの間の電位のコントラストを明確に観察することができます。

表面電位とナノメカニクスの相関関係

グラフェンのしわとサファイアステップ周辺の高さ、およびそれらの表面電位コントラストをさらに調査するために、Park SystemsのPinPoint™ ナノメカニカルモードを使用して、同じ位置でのサンプルの凝着力と弾性率を画像化しました。PinPoint™は、図4に示すように、高速フォーススペクトロスコピーマッピングを 介して正確で定量的なナノメカニカル画像を提供します。カンチレバーはスキャン領域全体の各ピクセルに接近および後退して、サンプル表面の3Dトポグラフィーと ナノメカニカル情報を同時に取得します。各ピクセルでXYスキャナが停止し、チップ先端とサンプル間の接触力と接触時間を明確に制御して、高速のフォース ディスタンスカーブが取得されます。各フォースカーブの自動分析により、サンプルの変形、弾性率、および凝着力をトポグラフィーイメージングと同時にリアルタイムで 視覚化できます。

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図4. Park SystemsのPinPoint™ナノメカニカルモードの概略図。このフォーススペクトロスコピー技術では、位置1、2、3、および4で示されるように、チップがサンプルに 近づき、各ピクセルで後退してから次のピクセルにナノメカニカル特性をリアルタイムで視覚化できます。

 

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図5.Park SystemsのPinPoint™ナノメカニカルモードを介してサファイア基板上のグラフェンで取得された 凝着力と弾性率、および同じ測定領域でサイドバンドKPFMを介して画像化されたその表面電位。白く囲まれている箇所では、周囲のサファイアステップと 比較して、より高い凝着力、変形、および表面電位を特徴とする同じサファイアテラスの位置を示しています。

PinPoint™ナノメカニカルモードを介して取得された凝着力と弾性率は、下層にあるサファイアテラスとステップおよびグラフェンのしわの間のコントラストを 示しています(図5)。このように、表面電位の低下を特徴とするサファイアステップに近い高さ部分では、より低い凝着力とより高い弾性率を示しており、 グラフェン膜は、より硬くなることがわかります。一方、サファイアテラス部分に成長した膜は、凝着力が増加し、弾性率が減少します。 ナノメカニカル特性と表面電位およびサンプルトポグラフィーとの相関関係は、材料の機械的および電気特性に関連性があることの可能性を表しています。

まとめ

今回の測定では、サンプルの表面電位と、グラフェンの電気的および機械敵特性の関係を示す凝着力と弾性率との明確な相関関係を観察することができました。 Park Systemsの研究用AFMでは、サイドバンドKPFMおよびPinPoint™ナノメカニカルモードなど様々なAFMモードが利用可能です。AIXTRON社 CSS R&D用 結晶成長装置で 製造されたサファイア上でのウェハースケールCVD成長グラフェンで実証されているように、Park SystemsのAFM技術の組み合わせにより、2D材料の全体的かつ 詳細な特性評価が可能です。2D材料の高度に局所化された機械的および電気的特性を特徴づけることにより、将来のナノエレクトロニクスアプリケーションに合わせた 開発が可能になります。

参考文献

[1] S. J. Kim, K. Choi, B. Lee, Y. Kim and B. H. Hong, Annu. Rev. Mater. Res., 2015, 45, 63–84.

[2] N. Mishra, S. Forti, F. Fabbri, L. Martini, C. McAleese, B. R. Conran, P. R. Whelan, A. Shivayogimath, B. S. Jessen and L. Buß, Small, 2019, 15, 1904906.

[3] U. Zerweck, C. Loppacher, T. Otto, S. Grafström and L. M. Eng, Phys. Rev. B, 2005, 71, 125424.

[4] S. Samaddar, J. Coraux, S. C. Martin, B. Grévin, H. Courtois and C. B. Winkelmann, Nanoscale, 2016, 8, 15162–15166.